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あばれはちまん 奇蹟なんてどこにでもあるのに
靴下に表裏なんてない
2010-05-01 Sat 20:50
ある朝のこと。僕はいつものように死人のような顔で背広という囚人服に着替えていたんですね。靴下をツルっと穿いてみせたんですが裏返しに穿いたらしくって、裏返しである事実を知らせるラッパの役目のあの糸が端っこからピロっとはみ出している。靴下に裏表なんて必要なのか?考えたんですね。

だって、靴下ですよ、靴下。読んで字の如く靴の下なわけですよ。靴の隙間から見えこそすれ裏か表かなんて誰も気にしない。誰があなたの靴下が表であるかどうか?心を配るでしょうか?これこそ自意識過剰の極致、誰も他人の靴下に裏表を求めていない。では何故靴下には裏表があるのか?

古来より日本人は"時間が進む様子"に大きな感動を覚えてきた民族なんだと思うんです。そして"時間が進む様子"を美しく表現してきたんですね。

この話は何度か書くんですが、枕草子の初段"春はあけぼの"に

「秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の、寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。」

という一節があるんですね。文中鳥が寝床へ向かう描写を"三つ四つ、二つ三つ"としているんですが、時間が夕暮れへ向け進む様子を、飛び急ぐ鳥の数を減らすことで表現しているんですね。この話は僕が高校の頃国語の授業で先生から習ったんですが、今だに覚えているほどそのシンプルで美しい表現に感動を覚えたんです。で、あまりの感動にですね、清少納言に出来て僕に出来ないハズはないと思いまして、こんな記事を書いたことがあるんです。記事中僕は"プップコププッコ"と書いてるんですが奴らがひり出される擬音を変化させることで時間が進んでいることを表現したんです。こう、書いてみてちょっと感じるんですが、書けば書くほど納言と僕との距離が離れていくような気が…。

まぁとにかく僕らは時間が進む様子に敬意を払い、美しさを感じるものなんです。
日本庭園なんかもそうですね。庭園に四季を織り込むことは即ち進む時間を凝縮し愛でるということ。時間が進む様子を表現する、時間が進む様子を凝縮しそこに美しさを伴わせる、日本人で良かったなんて思うじゃないですか?

あの朝僕は過って裏返しに穿いた靴下を正しく穿き直すことなく元気な死人としてにっこり笑顔。会社に行ったんですね。
目的もなく穴を掘ってはまた埋める作業の繰り返しで一日をやり過ごし家に帰った僕は靴下を脱いだんですが、朝眺めた糸の端は、夕方に眺めても同じような糸端っぷり。朝と同じように僕に裏返しであることを知らせていたんです。

その糸端はそれ自体が"時間が進んでいない様子の描写"に思えたんですね。今日という日がいかに無意味であったかを、まるで変化しないことで僕に報せているように思えた。僕は泣きそうになったんですね。

あの糸端はまったく変化しないことで意味をもって時間が進まなかったことを、何も解決しなかった今日を、つまりは醜悪な今日という事実を僕に薄ら笑いで突きつける。あの糸端は実際に経った無為な時間の、墓標の役割を担うんだと思うんです。


靴下には表裏なんてない
あるのは、表だけなんだ

あの糸端は全ての日本人の今日を嘲る悪魔である。僕らは感覚的にあの裏を見てはいけないことを知っているんですね。だから"表を表にして、穿く"んだと思うんです。
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この記事のコメント
・「」
「背広という囚人服」っていう表現がいいですね。初期のブルーハーツっぽくて。靴下の奴には僕もやられることがあるんですよ。僕の場合は整備工時代からの習慣で今でも五本指ソックスを愛用しているんです(断じて水虫ではない。断じて)。五本指ソックス界には「かかと付き」と「かかと無し」っていうのがあって、かかと付きっていうのは右足用と左足用が決まっているんですね。かかと無しっていうのは左右どっちでもいける。かかと付きの五本指ソックスを何足も買うと、洗濯した時に母親が両方右足のソックスをクルッとまとめたりする訳ですよ。まあ、そんな時は「ああ、母さん、俺が両方右足の男でなくてごめん」で済むんですが。あとこれは僕だけではないと思うんだけど、靴下を履く時は片足で立ったまま履くようにしてるんですよね。五本指ソックスを片足で立ったまま履くっていうのはなかなか難しくって。しかも立っている足が動いたら負け、っていうルールまで課している。何に勝ち、何に負けるのか。そんなのは考えたことは無い。靴下に表裏は無いのかもしれない。でも、勝負ってのは確実に存在すると思うんですよね。
2010-05-02 Sun 18:43 | URL | ラバーソウル #4uAjNfEA[ 編集] | top↑
・「ラバーさんへ~勝ち負けは、ない~」
「津軽三味線の日本一を決める大会」が開催されているというニュースを観たんです。津軽三味線ってのは一般的に楽譜がなく流派ごとに師匠の弾き方を弟子が真似て受け継いでいくあたりの、素人がさも食い付きそうなな情報を飛び越えて、ここは是非動画で、ラバーさんクラスなら決してほっとかない珠玉の情報を確認していただきたいんですが、大会に出場している方々の格好がことごとくカジュアルなんですね。ちょっと近くのコンビニまでみたいな格好で日本一決定戦に挑んでいる。僕らは、津軽三味線といえばハオリハカマを纏って眉間にシワを寄せてクロニックな未来を奏でているもんなんだという漠然としたイメージを抱いているもんなんですが、チャンピオンシップに臨む彼らは柔らかな、オープンな雰囲気で大会に臨んでいる。

勝ちも負けもない

んですね。日本一即ち世界一のチャンピオンシップに挑むレベルの彼らは勝ちと負けの差が髪の毛一本程の差でしかないことを知っているんですね。だからせめて敗者に柔らかに。友人を招き入れるように変な英字が謳ってあるトレーナーを羽織った。

翻ってラバーさんが夜毎日毎の靴下を穿く際に繰り広げられているであろう片足立ちチャンピオンシップにも、勝ち負けは無いと思うんですね。だって、ラバーさんひとりしか参加してないし。

珠玉=http://www3.nhk.or.jp/news/html/20100502/t10014211491000.html
2010-05-02 Sun 21:42 | URL | ポルセリーナ #GBQCP7FA[ 編集] | top↑
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